2010/08/10(火)
晴れ/30℃
29℃。稚内は珍しく、東京と変わらない蒸し暑さだった。
空港には伊藤のオジサン、オバサンがクルマで迎えに来てくれていた。
5ヵ月も留守にした家は周囲に雑草が生い茂り、庭には大きな蜘蛛の巣が張っていた。
お盆休みを利用して3泊4日の予定で帰郷したのだが、やることはいっぱいある。
まず、第一に家を処分するのだ。
不動産屋との条件面の調整は、電話であらかたしていたので、契約はスムーズだった。
市役所に行って印鑑証明や住民票をとり、権利書やその他諸々の書類を揃えて契約書に判を押した。
チチハハが35年暮らした家は、あっけないほど簡単に人手に渡った。
引き渡しには3日間の猶予を貰っているので、その間に必要なものを東京に送り、家財道具を処分しなければならない。残ったものはすべてゴミとして廃棄されるのだ。
幸い伊藤さんの口利きでソファやテーブル、カラオケセットなどは福祉会館が使ってくれるというし、チチが育てていた鉢植えは老人ホームが引き取ってくれるという。
毛布やタオルや鍋釜で、箱に入っているものは地区のフリーマーケット行きだ。
夜、ハハと2人で荷物の整理をした。
古いアルバムや秋冬物の衣類、仕立てて一度も袖を通していないチチの着物、祖母の形見を段ボールに詰め込んだ。
コレも持っていきたい、アレも捨てられないというハハの希望を聞いていたら、東京の狭いマンションは寝る場所がなくなるので、荷物は段ボール15個までと数量を限定した。
いる、いらないで、言い争いになったのは、ハハのキーホルダーのコレクションだ。
チチの定年後、両親は日本中を旅行している。
行った先々で記念に買ったのが、観光地のキーホルダーなのだ。
それが200個ほど木箱に入っている。
「私の宝物なんだから手荷物にしてでも持って行くからね」とハハは譲らない。
しかし、金属製のキーホルダーが200個も集まると、ハハの力ではとても持ち上がらないのだ。
「だれか欲しい人いないべか?」
「少なくともオレはいらない!」
「この親不孝者!!」
ハハは「えーんえーん」と泣き真似しながら、渋々フリマに出すことを承諾したのだった。(つづく)