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東京ベランダ通信

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2017年 07月 25日

アオトコーヒーのこと

青砥の駅前でタクシーを拾った。
運転手に「青戸7丁目まで」と住所を伝え、「青い扉のコーヒー屋さんなんですが…」といっただけで、
「ああ、あそこね」と、運転手はすぐに目的の場所が判ったようだ。

あとで知ったことだが、アオトコーヒーはバス通りと国道6号線が交わる大きな交差点のそばにある。
だから、バスやタクシーが信号待ちをしていると、アオトコーヒーがよく見えるのだ。
タクシーの運転手が知っているわけである。

「で、お客さんたちはコーヒーを飲みに、わざわざ来たんですか?」と運転手。
「友だちの店なんです。おいしいので、ぜひ、行ってみてくださいよ」とオクさん。
すると運転手は「わたしゃコレだから」と、センターコンソールから飲みかけの缶コーヒーを持ち上げて、
「へっへっへっ」と笑ったのだった。

青砥は裕福そうな街ではない。おしゃれさも微塵もない。スタバだってない。
缶コーヒーとコンビニコーヒーの街なのだ。
そんな街で自家焙煎スペシャルティーコーヒーを売るというのは、布教活動に近い。

タクシー代は2メーター490円だった。
二人で行くならバス料金とたいして変わらない。
バス通りは国道6号線を横切って直進すると10分ほどで亀有、右折して荒川の支流中川を越えればそこはもう柴又だ。

信号の手前でタクシーを降りる。
アオトコーヒーは目の前だ。
白に近い水色の壁、青い扉に丸窓3つ。扉の前には足跡がふたつ。
まるで透明人間が2人、店に入っていったかのような仕掛けだ。

となりはどこにでもあるような居酒屋。
店の前にはママチャリが3台、歩道にはみ出すように置かれている。
窓の手すりには使わなくなった古いすだれが立て掛けられている。
時刻は6時を少しまわった頃だ。
ご近所さんたちが一杯引っかけに、ぞろぞろと店に入っていく。

そんな街に馴染んだ居酒屋と、街に馴染むことを拒絶したようなコーヒー屋が、軒を接している。

なんだかすごい景色だ。違和感がハンパない。

世間一般がイメージするコーヒー屋というのは、ドアを開け、中に入るとその店のあるじの世界が広がっている、というのが相場だが、
アオトコーヒーはドアの外にまで、あるじの思いや世界がはみ出してきている。


この店のあるじを紹介しよう。

アオトコーヒーのあるじは、修行僧のような雰囲気を持った痩身の男だ。
ハットとアバンギャルドな眼鏡がトレードマーク。
このファッションだってこの街では相当浮いている。
仲間はみんな「ヒデちゃん」と呼ぶ。

シャイなのでおよそ客商売には向いてないと思うのだが、アオトコーヒーはお手製珈琲豆屋。
つまり、自家焙煎珈琲豆を売る店なのである。
ロースターの前で豆と向き合うのが仕事なのだから、シャイでもそれほど問題はない。

もちろん、店ではヒデちゃんがハンドドリップで丁寧に淹れてくれるコーヒーも飲める。
これがすっきりしていてうまい。とてもきれいな味のコーヒーなのだ。
口に運んだ瞬間、「ふふっ」と小さな笑みがこぼれてしまうようなコーヒーだ。

ヒデちゃんは珈琲店で修業をしたことがない。
焙煎も抽出の仕方も独学だ。だが、心の師匠はいる。
師匠の店は志村坂上にあるのだが、ずいぶんとその店に通ったらしい。
ボクも1度だけそこに行ったことがあるので、ヒデちゃんが目指しているところがよく判る。

店内はセルフビルドだ。
ヒデちゃんが時間をかけてこつこつと作り上げた空間なので、なんともいえない居心地のよさと、手作りならではの温かさがある。

開店するにあたってはたくさんの仲間たちも協力を惜しまなかった。
益子で活躍する陶芸のワカさん(石川若彦)が看板やOPENサインを作り、ランプシェードや手洗いボールも作った。KINTAさんはスツールを、皮革作家の曽田耕さんはテーブルの下に収まる物入れやカウンターのハイスツールを、オリジナルのマグカップは石原稔久さん、コーヒーサーバーやピッチャーは伊藤亜木さん、こけしの傘立てやアオトコーヒーバスは増田光さん、他にもshimaさんのオブジェや蓋物、竹之内太郎さんの一輪挿し、岡歩さんのコウモリと店内には人気作家たちの逸品が並んで、さしづめ小さなギャラリーのようでもある。

たくさんの協力を得られたのはヒデちゃんの人徳といえば人徳なのだが、頼りないヒデちゃんを見て、「なんとかしてやらねば」と匠の大先輩たちがひと肌脱いだ、というのが当たっているような気もする…。

さて、長くなってしまったが、アオトコーヒーは今年の6月で2周年を迎えた。
ご近所の常連さんも少しずつ増えてきているようだし、遠くからコーヒー豆を買いに来るお客さんもいるらしい。
結構なことである。ありがたいことである。

街に馴染んでいなくてもいいんだと思う。この街で異彩を放ち続ければいいんだと思う。
アオトコーヒーという店があり、そこには岡田秀敏という男がいて、いいと思う味を出し、いいと思った物だけを置く。
そして、それをいいと感じる人たちが、ゆっくりと羽を休めにやって来る。
なんて素敵なことなんだろうと、ボクは思うよ。

あらためて、開店2周年おめでとう。

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by novou | 2017-07-25 14:17 | 番外編 | Trackback | Comments(0)
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